善人なおもって往生を遂ぐ いわんや悪人をや

 

タイトルは親鸞聖人のお言葉。

浄土真宗にはあまり通じていないんだけれども、この言葉は知っている。

『善人が極楽へ行けるんだったら、悪人こそ極楽に行ける』差し詰め、言葉の意味はそのようなところ。

かの、尊敬してやまない大森秀櫻先生はこれをこう説明した。

『善人とは事大主義なんですね。その時代の権力に従順な人間が善人だということになります。実際にはこれらは悪人なのです』

仮に悪事を働いたとして、それが権力者にとって都合の良いことであれば善人になるというのであれば、今の時代において私は悪人でいて、体制になんて従わずピストルズよろしく『There's no future for you!(お前に将来なんてないぜ!)』と歌っておこうと思う。

ま、悪人というとアレなんで、不良ということにして。

そう、子供の頃、私は不良で、そして周囲にいるいい子ちゃんが苦手だった。

実際には不良だったわけでなく、不良っぽいオーラを漂わせていただけなんだけど、高一の担任をして『お前が入学してきた時は半年ももたないで辞めると思っていたよ』と言わしめた。ま、後にこの先生とは仲良くなるんだけどね。

当時のいい子とはどんな子かという、忘れもしないエピソードがある。

時は湾岸戦争が勃発し、多国籍軍が空爆を開始した、高二の冬のある日。

担任でもあった国語の先生が授業へと教室へ入ってきて最初に発した一言。

『たった今、多国籍軍がイラクへの空爆を開始したそうです。』

それを聞いた時、私は、ついに戦争が始まった...と、突如として暗雲たる気持ちが込み上げていた。たくさんの人が死んでしまうかもしれない。世界はこれからどうなるんだろうという不安。

と、その矢先

『先生、それじゃあ私たちの就職どうなるの!』と真っ先に質問してきたのはクラスで一番のいい子ちゃんだった。成績も優秀で生徒会の役員もしていた子、だったと記憶している。

...え?そこがポイント?

日本の私たちからしてみれば遥か遠く対岸の火事のような出来事とは言え、そこにいる人の生死に関わり、彼らの生活が脅かされるという問題を前にして、どうして就職のことなんか聞くのか、感覚がまるで違いすぎて、わけのわからない女だと思った。

就職活動に前向きなところ先生にアピールでもしたいのか?? やはりわけがわからないが、とりあえず彼女はミッキーマウスを演じているネズミだったんだと悟った日。

それから時は何十年も過ぎた現在。

たまたまご縁あって知り合ったクウェートの人たちとトルコでヨガ&気功のリトリートをした昨年。私にとって初めて出会うクウェート人。仲良くなった際に、当時のイラクのクウェート侵攻とそしてそこから始まった湾岸戦争の頃の話を聞いた。

当時15歳だったというリトリートのメンバーのうちの一人がその時の記憶を話してくれた。とてもパーソナルな辛い体験だった。

彼女以外にもみんな、直接生死には関わらなかったとしても、家族が離れてバラバラに住まざるをえず、安全のためと親戚の家に預けられたり、家から一歩も出られなかったり、自由がなかったりと、普通の子供時代を過ごせず、多感な頃にトラウマのような体験をしたと言う。

だからと言って、イラクが、フセインが悪いとか一様には言えないわけで、そこには中東への石油利権と支配を目論むアメリカが、イラクとクウェートの対立を利用したという背景がある。それは2023年のロシアーウクライナへ続く今と何も変わらない。

とにかく。

あの日の出来事を現実に体験していたこの彼女たちを目の前にして『この戦争のせいで景気が悪くなって私たちの就職がおじゃんになったらどうするの?』と言っていたクラスのいい子ちゃんの言葉が再び蘇り、それは時空を超えて恐ろしく冷血な響きを持ったものとなった。

高校生の私は、当時まだ出会ってもいなかった戦火の下にいる彼女たちの側に心を寄せていたし、心配事が決して自分の就職とか進路ではなかったのは明確だ。

まぁ、わからない。いい子ちゃんのそれはただ単に無邪気な17歳の発言だった、といえばそれまでなのかもしれない。もちろん彼女が他人に優しくないわけじゃないだろうと思いたい。だけど、世界の中に望まずして困難な状況にいる人々の存在を無視して、自分のことしか興味がないという人が増えていくと、この先どんなに非情な世界になるんだろうと、あの時感じたことは確かだ。

善人なのか悪人なのかは、何に心を寄せ、誰の側に立っているのか、ということだと思う。自分が大事なのか、それとも自分と同じくらい他人のことも尊重できるのか。


さて、コロナ禍も明け、善人のふりをした悪人が炙り出されたこの3年3ヶ月。

そして今、善人の犯した罪がどんどん暴露されるであろうという局面へ突入した、冥王星水瓶座『I Know』の時代。


善人でいるか、悪人でいるか?

どちらにしても誰も私の心を汚すことはできないよ。





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