演出ではなく本質を
前々回のブログ(もう8ヶ月も前になるのですが)、「黄金の方程式=8時間」でピアニストのヤブちゃんのことを書きました。
そのヤブちゃんが、現在開催中の第19回ショパン国際ピアノコンクールの地、ポーランド国内にて、審査員として発言したインタビュー内容が物議を醸している様子です。
翌日には日本のスレッズなどでも話題になっており、ちょっとした炎上?のようになっています。
ところで、ヤブちゃんなどと気軽に呼んでおりますが、このクシシュトフ・ヤブウォンスキ氏、世界的権威のピアニストで、前述した通り、ショパン国際ピアノコンクールの審査員でもあります。いつも彼のことについてはたくさん語っているため、今回ここでは彼の華々しい経歴は省略しますが、とても素晴らしいピアニストです。(経歴は、華々しいというよりは、地位や名声に魂を売らなかった堅実な、といった方が相応しいのかもしれません。)
先月の大阪万博にて、ショパンの祖国であるポーランド開催のショパンガラコンサートでの演奏のために来日していたヤブちゃんにお会いすることができました。万博でのコンサートを終えた後日、広島でリサイタルがあり、その日、楽屋に招待していただきました。
もちろんわたしが楽屋に案内されるに相応しい立場だとは全く思えません。ピアノ関係者でもないし、単なるファンで昔からの知人、というだけです。要はヤブちゃんという人は、いつでもどこでも誰にでも分け隔てなくとても優しいのです。ステージでのヤブちゃん、そして楽屋でお話しをしてくれるヤブちゃんは、本当に背中に天使の羽が生えているのではないかというくらい、違う言い方をすればくまのプーさんのように(失礼)優しくて、紳士で、穏やかで、同時に情緒的で、魅力的で、実際の彼に会うと誰もが、その天使のような汚れのない優しい笑顔に魅了され、彼のことを大好きになってしまいます。
そんなヤブちゃんが唯一、辛辣になってしまうのはショパンに関して。あんな虫も殺さないような顔をして、とても厳しい審査員になります。
今回のインタビューでは、コンクールでの演奏者の、演出された(過剰な)パフォーマンスについて、ピアニストとして自分を売るためというのが目的のようなコンクールへの出場目的、ショパンの楽譜の解釈の甘さや、その表現の不適切さ、、、およそ、そのようなことを話されていたようです。(動画は探せましたがポーランド語のため、それを日本語訳して下さっている方の投稿を拝見しました。)
その後は、、、大炎上です。
大炎上、と言っては大袈裟かもしれませんが、5年に一度のピアノ界の頂点に君臨するコンクールの開催中に、ショパンの生まれ故郷であるポーランド出身のピアニストかつ審査員の発言とあれば、大いに注目を浴びて不思議ではありません。
いろいろあるけれど、簡単にひとことで言ってしまうと、要は、ここは今後売れるであろう世界的な新人ピアニストを発掘する場所ではなく、個人的な表現や技巧に偏らずに、ショパンの技術と芸術性、そして文化的背景をきちんと正しい解釈で表現し、継承していくことが求められる場だ、ということなのですね。
「ポロネーズやマズルカの本質を深く理解する」
「楽譜に忠実に弾く」
「研究心と知識を大切にする」
「個性とは静かな誠実さ」
「ショパンの音楽には謙虚さと真心が必要だ」
「最近ではたくさんの演奏家が動画などで自身の活動をアピールしているが、そういった動画の中には正しくない演奏もあり、それらの動画を見て手っ取り早くピアノの練習をしても、それは間違ったやり方で、近道はない。時間をかけて継続することが本当の学び」
本当はもっともっと出世していいはずの実力と経験を持っているのに、決してそういう場所へは立とうとしないのは、このようなことに忠実なヤブちゃんであり、天使のようなヤブちゃんが、ことショパンの審査となると鬼と化し、ゆえに「正統派」と呼ばれる所以です。
わたしは長いことヤブちゃんを存じていますので、彼のショパンに対する研究とその情熱、また今だに誰よりもピアノを練習することを知っています。実際にショパンの時代から保存されている貴重な(博物館レベルの)ピアノを特別に演奏してレコーディングするなど(当時のピアノはオルガンのようなものと言っても過言ではない)、彼のショパンに対する見解は、長年の彼のキャリアをかけて真摯にショパンを研究し続けた結果、また一ピアニストとしてショパンを演奏し続けた結果でもあるのです。
ショパンコンクールはライブで世界配信もしているため、最近ではピアノのことをよく知らない世界中の人たちが関心を持って視聴しており、故に、「何もしらない観客の意見」が山のように溢れています。何もしらない観客は随分と演奏者のパフォーマンスに操られていて、「あの人の演奏が(演技が?)素晴らしかった」「この人が優勝して欲しい」と好き勝手なことを言っています。
もちろん、音楽やショパンに詳しくなくても、こうやって興味を持って楽しむことはいいことですし、こういった音楽ファン増えることは大切なことだと思います。わたしだって素人代表の聞きかじりの音楽ファンですから。
ただ、審査員はこのような観客を満足させるために審査をしているのではありません。わたしたち素人が5年に一度の祭典に浮かれている中で、人生をかけてずっとショパンを追求している人たちです。
その審査員の意見に敬意を払って欲しいなと。
そして、わたしのヨガに対する思いも少し似たようなもの。
それをわからない人は、きっと厳しいだのなんだのと思うのかもしれません。
今回のヤブちゃんの件のコメントの中にも「演奏の表現は個人の自由」だと訴えていた人がいらっしゃいましたが、それは一歩間違うと「エゴ」を履き違えただけのことです。
ものごとの本質を見極めること。
自分自身の本質を探ること。
今は「わかる人だけわかればいい」と思っています。
それが自然なことで、抗う必要はありません。
*日本でのヤブちゃんファンはみんな敬意を込めて、ご本人了承済みで、ヤブウォンスキ氏のことをヤブちゃんと呼んでおります。ご了承ください。
聞けばわかるよ。
https://www.youtube.com/@KrzysztofJablonskiPianist
 
 
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